
今にも切れそうな糸の如く、はかない命
Loetitia Raymond
(2010年1月21日、ポルトープランス、ハイチ共和国)
新しい命が誕生する、はかない瞬間。温かくて安全な母親の胎内から胎児が出てくる瞬間においては、ある状況が全てを変えてしまう恐れがあります。幸せな時が、一変して深い悲しみへと変わることがあるのです。
1月20日にサンピエール広場の地面に置かれた古びた荷箱の上で産声をあげたWadneiciaは、どんなに幸運だったかを知る由もありません。二十歳になるJoane Kerezが、母親の助けのみで、防水シートの下で第一子・Wadneiciaを出産したのは午前9時でした。周りにいる人の中で手を差し伸べる人はいませんでした。わずか2メートル四方の小さな空間に群がるのはやじ馬ばかりで、若い妊婦を息苦しくさせていました。
生まれたてのWadneicaを抱くJoane
Kerez (c)Evelyn Hockstein/ |
「周りには人だかりができていました。他人に身体を見られることのない、もっと清潔な場所で、子どもを生みたかった」と彼女は、自分に向けられた遠慮のない視線に戸惑いながらも語りました。この広場は、家を失った少なくとも6千人の被災者で埋め尽くされ、避難所と化しています。子どもたちはゴミの山で遊び、排水溝の水で身体を洗います。また避難所ではトイレ設備が乏しく、被災者が所かまわず用を足すため、女性たちはひどい悪臭の中で料理をしなければなりません。Joaneの母親は、消毒していない剃刀でへその緒を切りました。そして唯一入手できる安全な水は、CAREが前日に設置した貯水槽の水だけでした。5千リットルの水が、被災者のニーズを満たすために供給されたのです。
「CAREが貯水槽を設置してくれたことに感謝しています。さもなければ、道端の水道管から溢れ出る水を使わなくてはなりませんでした。」
石鹸も、衛生的なタオルも消毒剤もありません。医者も、ましてや合併症を引き起こした際に必要な最低限の医療設備もないのです。このような状況で出産をすることなど、多くの女性は全く想像できないでしょう!しかし、Joaneの出産にまつわる話はここでは決して珍しいことではありません。1月13日以降、ポルトープランスでは、何百人ものハイチの女性たちが、通りのゴミ箱に紛れて出産をしています。
家を失った人々の生活環境を改善するために、CAREは身の回りを掃除するための手押し車・シャベル・箒の配布を開始しました。「伝染病拡大のリスクを最小限に抑えるためには、ゴミをなくすことが絶対に必要です。周辺に住む人々からボランティアを募り、衛生に関する意識を向上させるための啓発活動を行う予定です。この、根本的で重要な情報を広めていくことで、リスクを相当小さくすることができます」と、CAREハイチ現地事務所Health DirectorのFranck Geneusは言います。
Saluka Franciaの赤ちゃんは一か月前に病院で生まれました。しかし、家族がこの避難所に移ってから、健康状態が悪化しました。「お腹が痛いようで、下痢が続いています。風邪をひいてしまったようです」と母親は、息子の症状を説明しました。異常に小さな身体の赤ちゃんを前に、その悲しそうで弱々しい表情を見て、ただ心配をすることしかできませんでした。赤ちゃんのその苦しそうな様子から、健康状態の悪さは明白でした。母親に、子どもを医者に診てもらったのか、または医療サービスを受けたのかと尋ねました。彼女が答えるまでもなく、返事が「いいえ」であることはわかりきっていましたが。
妊娠8カ月の妊婦・Viergemene Jean |
妊娠8カ月目のViergemene Jeanはだるさに悩まされながらも、12月から医者の診療を受けていません。「疲れを感じます。日中は暑すぎて、夜は寒さを防ぐものがないので寒いです。失望しています」と彼女は話しました。
Joane同様に、Viergemeneもどうやって出産すればよいのか分からず、心配しています。「多くの病院が破壊された上に、多くの人が怪我をしているので、全員が診てもらえる余裕がないことは理解しています」と、彼女は言います。このように、出産という喜ばしいはずの出来事が、彼女のような妊婦にとっては、心配と不安の種となっているのです。
Viergemene の友人であるMarie-Michel Blancは32歳で、3人目を妊娠中です。通常であれば、彼女は出産経験もあるので、少しは余裕を持って望めるのではないかと考えるかもしれません。しかし、彼女も他の妊婦と同じように不安を抱えています。2人目を出産した際に、帝王切開をせざるをえなかったからです。そして今回、もし合併症になったとしても、帝王切開という選択肢はないことを彼女は知っています。「お腹が痛く、何か問題があるようなのですが、実際に何が起こっているのかは分かりません」と、彼女は、心配そうに話します。私は医者ではありませんが、女性です。手のひらをそっと彼女の腹部に置き、中で胎児が成長している温かい丸みを感じました。そして、2週間前後で生まれそうな赤ちゃんが逆子であることにすぐに気が付きました。私に何ができるのでしょうか?診てくれる医者がいないことを知りながらも、彼女に逆子のことを伝えて心配の種を増やすべきでしょうか?私は避難所で助産婦を見つけるようにと言いました。彼女の出産を助け、もしかしたら逆子も治してくれる人がいるかもしれないと……。
妊婦・Marie
Michele Blanc (c)Evelyn Hockstein/ |
誰もが、狭い場所に押し込められていること、そして太陽が昇ると赤ちゃんの肌を焦がすような暑さえあることを嘆いています。日焼けから赤ちゃんの肌を守るために布やタオルで身体を巻いてしのいでいますが、そのことにより、かえって身体に熱がこもってしまっています。ここには飲み水がないので、脱水症状が深刻な問題となっていますが、CAREのスタッフが水浄化剤を配布して、その心配を緩和しています。
大地震の日の朝に生まれたSarahのように、命は奇跡を生み出すこともあります。Sarahは母親とともに一部崩壊した病院にいましたが、無傷で逃げ延びたのです。「私のベッドも、何もかもが揺れていました。とても怖かったです。大きな音がしたと思ったら、人々が叫び始めました。私はSarahを強く抱きしめ、このまま死んでしまうのだろうと思いました」と、母親のEmy Merciは話します。
Emy Merciは、3人目の子どものSarahを抱きしめながら幸せそうな笑みを浮かべました。彼女の表情からは生きていることへの感謝が感じられます。
地震発生日に三番目の子どもを出産した Emy Merc(c)Evelyn Hockstein/ |
Emy Mercも、他の人同様に苦しい状況を話しますが、Sarahさえ側にいれば、何にでも耐えていけそうな様子でした。衛生状態改善のためにCAREが配布している衛生キットを受け取って、Emyはとても嬉しそうです。衛生キットの中には、石鹸・トイレットペーパー・歯磨き粉・洗濯用石鹸・生理用ナプキン・その他衛生状態を改善に役立つ製品などが含まれています。「これでSarahの身体もおむつも洗えます。これまでは、洗濯用石鹸がなかったので、娘の服も洗えませんでした。でもこれからは、全てが変わります」と、Emyは話します。Joane、Saluka、そして Marie-Michelを含む1千人の女性たちが衛生キットを手にして、Emyと同じ感謝を表していました。
このような状況下では、妊婦や乳幼児はさらに弱い立場にさらされています。彼女たちを見ていて、今にも切れそうな糸の如く、命がどれほどはかないものかを感じました。何でもないような小さなことが、母親や子どもにとって助けになることがあるのです。だからこそCAREは、生活費需品を配布し続け、そして女性の出産と子どもの成長の第一歩を支え、人の命の糸を紡いでいくのです。
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