「~Lolo sae~ 東ティモールの日の出」フォトジャーナリスト 佐藤慧
「~Lolo sae~ 東ティモールの日の出」フォトジャーナリスト 佐藤慧
「lolo sae(ロロサエ)」という言葉がある。東ティモールで話されているテトゥン語の言葉で、「日の出」を意味する。東ティモールは、21世紀で初めての独立国家だ。細かい歴史は他に譲るが、独立闘争の間に数えきれないほどの血と涙を流してきた。約20万人とも言われる犠牲の上に築かれた独立は、昨年10周年を迎え、いよいよ本格的に未来を描き出そうとしている。ケア・インターナショナル・ジャパンのプロジェクトと共に訪れたのは、東ティモール東部の田舎に位置するひっそりとした小学校だ。日本からの支援による学用品を、貧困地域の子どもたちに届けるというのが今回の目的であり、僕の仕事はその撮影だった。変わりゆく窓の外の景色に目を奪われながら、この国のことを考えた。この国の面積、人口は僕の故郷、岩手県とほぼ同じだ。その小さな社会が、命を賭して独立を成し遂げたことは奇跡のように思える。2013年1月には最後まで残っていた海外の治安維持部隊も撤収し、街には平和な空気が漂っていた。近代的なショッピングモールには最新の輸入商品が並び、地元のマーケットには変わらぬ笑い声が響く。急激な経済の変化に見舞われているとはいえ、そこにあるのは戦争とは無縁の長閑な風景だった。
今にも崩れ落ちそうな山道を四駆で駆け上がっていく。ところどころに見える真新しい電柱は、ここ最近電気が普及してきた証だ。標高が上がるにつれ、べったりと肌に張り付いていた湿気は薄れ、濃い緑から生まれる清々しい空気が辺りを包む。世界の頂きのような切り立った尾根から覗く景色は、どこまでも静かで、平穏な世界を象徴しているようだった。小学校が見えてきた。沢山の子どもたちが外で僕達を出迎えてくれた。伝統衣装に身を包む女の子たちが、楽器を鳴らしながら体を揺らす。突然現れた珍しい来客に、近所の人々も集まってくる。贈呈式の行われた教室の外には人だかりができ、中で何が行われているのか、必死に覗き込もうとしている子どもたちの眼の輝きに笑みが溢れる。渡された学用品を手にとった子どもたちは感嘆の声を上げ、さっそく日本の支援者へのお礼の手紙を書き始めた。一本の鉛筆、ひとつの消しゴム。日本ではなんでもない単なる文房具が、ここでは子どもたちの未来を紡ぐ貴重な道具だった。
住民の約1/3の命が失われた戦争が終結し、現在の東ティモール人口の60%は20歳以下だという。どこへ足を運んでも、大名行列のように学校に通う子どもたちの姿があり、沢山の笑い声が響いていた。未来とは何だろう。それは、これから先を生きる人々、そのひとりひとりの希望のことを言うのではないか。数えきれないほどの大切なものが奪われた東ティモールだからこそ、人々は未来に希望を抱いている。そして、その希望を担うのはこれからを生きる子どもたちだ。教育支援とは、未来を支えることなのだと、深く実感した。東ティモールの「lolo sae(日の出)」は始まったばかりだ。
佐藤 慧氏(プロフィール)
1982年岩手県生まれ。米国のNGOに所属して、南部アフリカ、中米の地域開発事業、ザンビア共和国の学校建設プロジェクトに携わる。
2010年studio AFTERMODEに入社し、フォトジャーナリストとして活動を開始。写真と文章を通じて、人間の可能性、命の価値を伝え続けている。
2011年世界ピースアートコンクール入賞。